重陽

二十四節気では「白露」の頃──、
空高く雲が流れ、秋草の穂が風に揺らぎ始めます。

白露とは「しらつゆ」の意味で、
草木に降りた露が白く輝いて見える時季のこと。
朝夕の涼しさが際立ち、次第に秋の気配が深まっていきます。

九月九日は、重陽(ちょうよう)の節句。
“菊の節句”とも呼ばれ、菊の花を愛でて邪気を祓い、
無病息災や長寿を祈ります。

古代中国では、奇数を縁起のよい陽数とし、
なかでも最も大きな陽数である“九”が重なる九月九日を、
“重陽”と呼んで盛大に祝いました。
一方、陽の気が強まりすぎると災いが起こるとも言われ、
霊力の高い菊を用いて厄除けとし、
無病息災を願う節目の日としたそうです。
かつては、呉茱萸(ごしゅゆ)の赤い実を詰めた袋を身につけ、
茶菓や酒肴を持って丘や山に登る
「登高(とうこう)」という慣わしもありました。
赤色は魔除けになるほか、秋が深まるにつれて寒くなり火の気が弱まるため、
赤色で火の気を増すという意味合いもあったのだとか。

菊は古くより人びとに愛でられてきた高潔な花。
その気品ある美しさは徳の高い君子に例えられ、
梅や竹、蘭とともに「四君子」と称されています。
その香りには延寿の力があるとされ、
生薬や漢方薬としても重宝されてきました。
また、古代中国には菊の咲き乱れる泉の水を飲み、
不老不死の力を得た「菊慈童(きくじどう)」の逸話も伝えられています。
日本においても重陽では菊が重んじられ、
菊の花びらを浮かべた「菊酒」をはじめ、乾燥した菊を詰め物にした「菊枕」や、
菊の朝露を含んだ真綿で身体を拭う「菊の被綿(きせわた)」など、
厄除けの祈りを込めたさまざまな慣わしが親しまれるようになりました。
菊の被綿は、和菓子の意匠としても好まれており、
秋の風情を映した菓子として、茶席などで用いられています。

菊を愛でつつ、菊酒とともに菓子を愉しむ、
清らかなる重陽の祝いを。