えびす講

二十四節気では「寒露」の頃──、
秋風にのって金木犀の甘い香りが漂い始めます。

寒露とは、冷気によって露が凍る頃のこと。
野草に宿る冷たい露そのものを指す言葉でもあります。

旧暦十月二十日は、えびす様を祀り、
商売繁盛や五穀豊穣を願う「えびす講」。
「えびす祭り」や「えべっさん」などとも呼ばれ、
各地でさまざまな祭事が行われます。

七福神のなかで唯一、日本古来の神であるえびす様。
釣り竿と鯛を抱えた姿に象徴されるように、
かつては漁村で豊漁の神として崇められ、
今では商売繁盛の福神として広く信仰されています。

旧暦十月は「神無月(かんなづき)」とも呼ばれ、
年に一度、全国から八百万の神々が出雲に集う特別な月。
そして各地で神々が不在となるこの期間の留守を預かり、
土地や人びとを守るのが、“留守神”とされるえびす様です。
この時季になると各地でえびす様を労い、
感謝を捧げる祭事が行われてきました。
これがえびす講の起源になったと言われています。
「講」にはえびす様を信仰する者たちの集いという意味があり、
えびす様の呼び方により「恵比寿講」や「戎講」、
「ゑびす講」などさまざまな字が当てられます。

えびす講の日程は地域によってさまざまですが、
関東では主に十月二十日に行われることから「二十日えびす」、
関西では一月十日に行われるため「十日えびす」と呼ばれ、
正月の風物詩として親しまれています。
えびす講では、神棚に尾頭付きの鯛や葉付き大根、御神酒などを供え、
えびす様を祀った神社に参拝します。
境内には大判小判や鯛などの飾り物を付けた「熊手」や「福笹」を売る露店が立ち並び、
人びとで賑わうのも見どころのひとつ。
熊手は福や運をかき集める縁起物であり、
福笹は青々とした葉を絶やさず成長する笹の姿にかけて、
家運隆盛や商売繁盛を祈願して飾る風習があります。

秋の豊かな恵みに満ちる十月。
一年の感謝を込めて祝い、大きな福を呼び込めますよう。