節気便り
2024.10.23
霜降
山粧う
二十四節気では「霜降」の頃──、
冷たい秋雨が大地を濡らし、山々が色づき始めます。
霜降とは、露が凍って霜が降りる頃のこと。
秋が深まるにつれ、朝晩の冷え込みも厳しくなります。
木枯らしが楓や蔦を鮮やかに染めるこの時季。
錦をまとったように野山が美しく彩られていく情景は、
晩秋の風物詩として人びとに愛されてきました。
山や渓谷を訪れ、紅葉を眺めて愉しむ「紅葉狩り」。
その起源は平安時代に遡り、貴族が紅葉を鑑賞する宴を催し、
その美しさを和歌に詠んで競う「紅葉合(もみじあわせ)」
という風雅な遊びをしていたことに始まります。
“狩り”とは、本来“獣を捕まえる”ことを意味しますが、
花や草木を探し求めることを狩猟になぞらえて、
桜狩りや紅葉狩りという言葉が生まれたのだそうです。
紅葉は「もみじ」とも読み、紅葉する樹木の総称ですが、
多くは赤く艶やかに色づくカエデ類のことを指します。
その語源は、紅花などの植物から染料を揉み出すという意味の
古語「もみづ」という動詞に由来し、
赤や黄などの色が葉に滲み出る様を「もみぢ」と言うようになったのだとか。
古の人びとにとって赤は太陽や火を想起させる生命の色であり、
穢れを祓う浄化の色でもありました。
紅葉を眺めることは、その美しさを愛でるだけでなく、
自然の力を身体に取り込み、
心身を整えるという大切な意味合いもあったのです。
秋の訪れとともに山々が色づく様を表す「山粧う(やまよそおう)」。
山の情景を表す言葉は四季それぞれにあり、
芽吹きの春は「山笑う」、青葉が茂る瑞々しい夏は「山滴る」、
静けさ漂う冬は「山眠る」──。
いずれも俳句では季語として好まれており、
移ろいゆく山の表情を生きているかのように捉えた情感溢れる言葉です。
紅葉の美しさは、長い冬が訪れる前の儚い生命の輝き。
鮮やかな粧いを見せる山々を訪れ、深まる秋に思いを馳せて。