節気便り
2025.04.20
穀雨
八十八夜
二十四節気では「穀雨」の頃──、
春の雨が降り注ぎ、野山は新緑に彩られていきます。
穀雨とは、穀物に実りをもたらす恵みの雨のこと。
煙るように降るこの時季の雨は「百穀春雨」とも呼ばれ、
田畑を潤し、植物の成長を促します。
五月一日は、茶摘みが始まる「八十八夜」。
立春から数えて八十八日目にあたり、
農事の重要な節目とされています。
八十八夜は、節分や彼岸などと並び、
季節の変わり目を表す暦日「雑節(ざっせつ)」のひとつ。
福を招くとされる末広がりの「八」が二つ重なることや、
「八十八」の字を組み合わせると「米」の字になることから、
農事に携わる人びとにとって縁起がよい日とされてきました。
茶摘みの最盛期となる八十八夜。
絣(かすり)の着物に茜襷(あかねだすき)を掛けて菅笠を被り、
茶の新芽をやわらかに摘み取る女性たちの姿は、
初夏の風物詩として親しまれてきました。
その年最初に萌え出た新芽でつくる茶は、「新茶」または「一番茶」と呼ばれ、
冬の間じっくりと養分を蓄えた茶葉を用いるため旨味や甘みが強く、
青々としたさわやかな香りがあります。
陽光をたっぷりと浴びて春の気に満ちていることから、
古くより不老長寿の縁起物として重宝され、
新茶を飲むとその年を無病息災で過ごせると言われています。
春から夏へと移ろうこの時季、
山あいでは急に気温が低下して夜間に霜が降りることがあります。
この季節はずれの遅霜は「別れ霜」「忘れ霜」「霜の果(はて)」などと呼ばれ、
これを過ぎれば霜の心配がなくなることから、農事を始める目安とされています。
また、八十八夜を過ぎて霜が降りることを「九十九夜の泣き霜」と言うのだとか。
いずれも情感豊かな呼び名が付けられていますが、
古の人びとにとって季節の機微を感じ取ることは、
暮らしを守るための大切な知恵でもありました。
八十八夜を過ぎれば、来たるは夏──。
滋味豊かな新茶で初夏の訪れを祝い、
一年を健やかに過ごせるよう祈りを込めて。