春祝う

二十四節気では「雨水」の頃──、
春の雨に誘われ、草木が芽吹き始めます。

雨水とは、降り続いた雪が雨へと変わる時季のこと。
大地が潤い田畑が目覚めることから、
農耕の準備をする目安とされてきました。

三月三日は、上巳(じょうし)の節句。
“桃の節句”とも呼ばれ、雛人形や桃の花を飾り、
女の子の健やかな成長と幸せを祈ります。

「上巳」とは、旧暦三月最初の巳(み)の日のこと。
古代中国では、季節の変わり目には邪気が入り込みやすいとされ、
水辺で身を清めて災厄を祓う風習がありました。
日本では宮中行事として取り入れられ、
草木や藁でつくった人形(ひとがた)で身体を撫でて穢れを移し、
身代わりとして川や海に流すことで無病息災を願う
「上巳の祓(はらえ)」が行われるように。
また、貴族の子どもたちの間では紙の人形を用いた
「雛遊(ひいなあそび)」が盛んになり、上巳の慣わしと結びついて、
室町時代以降は現在のような華やかな衣装を纏った雛人形を飾り、
女の子の健やかな成長を願う行事として定着していきました。
雨水に雛人形を飾ると縁起がよいと言われるのは、
“水はすべての生命の源であり母である”という古くからの考えに基づくもので、
雪解けとともに水が豊かになるこの時季に雛人形を飾ることで、
良縁や子宝に恵まれると言い伝えられています。

この頃から春先にかけてやわらかく降り注ぐ雨は、
芽吹きを促す恵みの雨──。
古よりさまざまな呼び名で親しまれ、多くの詩歌に詠まれてきました。
雪を解かす「雪消しの雨」、草木の芽吹きを助ける「木の芽起こし」や
花々の開花を促す「催花雨(さいかう)」、
万物を潤し育てる「甘雨(かんう)」など、
自然の変化を細やかに映した美しい呼び名が伝えられています。

健康への祈りとともに春を寿ぐ、上巳の節句。
あらゆる生命が芽吹き萌ゆる、花盛りの春を心待ちに。