節気便り
2026.06.06
芒種
風の色
二十四節気では「芒種」の頃──、
木々の緑が濃くなり、梅の実が熟し始めます。
芒種とは、芒(のぎ)をもつ麦や稲などの種を蒔く時季のこと。
田植えとも重なるため、農家は繁忙期を迎えます。
青葉を揺らして渡る風、雨の匂いを運ぶ風、夏を告げる風──、
人びとは風の気配を細やかに感じ取り、
移ろう季節の趣を言葉に託してきました。
青葉の間を吹き抜ける春の風は「青風(あおかぜ)」、
熱気を帯びた夏の風は「朱風(しゅふう)」、
そして涼やかな秋の風は「白風(しろかぜ)」。
和歌や俳句では、秋の風は「色なき風」とも表され、
澄みゆく空気や静けさを、色をもたない風として捉えたそうです。
風に“色”を重ねる表現は、古代中国の陰陽五行に由来するとされ、
自然の気配を象徴として捉える古の人びとの感性が息づいています。
風はまた、農や漁の営みと深く結びつく存在でもあります。
梅雨から盛夏へと移ろうこの時季の南風には、
季節の変化に応じた呼び名があります。
梅雨入りの頃、湿気を帯びた重たい風は「黒南風(くろはえ)」と呼ばれ、
厚い雨雲を運び、空や海を暗く見せることから名づけられました。
梅雨の盛りに雨気を帯びて荒々しく吹きつける風は「荒南風(あらはえ)」。
そして長い雨が明ける頃になると、陽射しを纏った明るい南風が吹き始めます。
この風は「白南風(しろはえ)」と呼ばれ、
空の青さを際立たせ、本格的な夏の訪れを告げる風とされています。
空の色や雲の流れとともに風向きを読み、天候の変化を感じ取ることは、
暮らしの知恵そのものでもありました。
また、初夏の頃に吹く清々しい風は「薫風(くんぷう)」や「風薫る」とも称され、
青葉の香りとともに、草木の生命力に満ちた気配を運びます。
目には見えない風を、色や香りなどの感覚に重ねて捉えるところに、
自然を慈しみ、季節の移ろいを言葉でも味わおうとする心が表れています。
瑞々しい青葉に目を潤す六月──。
風に映る季節の色を感じつつ、満ちゆく夏へと思いを馳せて。