節気便り
2026.05.21
小満
麦秋
二十四節気では「小満」の頃──、
草木の青葉が生い茂り、力強い陽射しが降り注ぎ始めます。
小満とは、大地に生命が満ちていく時季のこと。
蒔いた種が成長する様子にひと安心(小満足)することから
名付けられたと伝えられています。
黄金色の麦穂が揺れる五月下旬。
この時季は麦にとって実りの秋にあたるため、
「麦秋(ばくしゅう)」と呼ばれています。
本来“秋”とは季節のことではなく、
収穫の時期を意味する言葉で、麦においては初夏こそが実りのとき。
黄金色に染まる麦畑の風景を、
古の人びとは“秋”になぞらえて表しました。
この時季の穏やかな晴天は「麦日和」とも称され、
収穫に適した天候として喜ばれたそうです。
その一方で風が麦穂を大きく揺らす様子は「麦嵐」と言われ、
黄金色の波が一面にうねる光景は、初夏ならではの風物詩でした。
こうした情景を映す一語一語に、
麦とともに暮らしてきた人びとの営みが息づいています。
六月に入ると風は少しずつ湿り気を帯び、
やがて訪れる「梅雨」の気配を運んできます。
梅雨は、梅の実が熟す頃に降り続く雨を意味するもので、
古くより季節の節目とされてきました。
雨が続くこの時季は、農事において田畑を潤す大切な期間です。
田畑に水が満ちていく様子は、自然の循環そのものに触れる時間でもあり、
人びとはその静けさのなかに、次なる実りの気配を感じ取っていました。
また梅雨の長雨は、暮らしのなかで細やかな感性を育みました。
「五月雨(さみだれ)」や「梅雨寒(つゆざむ)」という言葉に表されるように、
しとしとと降る雨や湿り気を含んだ空気は、
繊細な季節の感覚として和歌や俳句の世界にも深く根付いています。
満ちゆく緑と収穫の喜びに包まれる麦秋──。
自然に感謝を込め、移ろう季節を心静かに愉しむひとときを。